このブログもあまり書かないと忘れ去られてしまいそうなので、発行済みの旬を順次掲載してゆきましょう。
なお、写真も無作為に載せますが、ほとんど文とは関係ありません。
自由句
みちのく 畑 美樹
義経の眉毛も萩もまだ揺れず
阿佐緒居て玄米かたく炊いており
吟醸の雫 戦場のしずく
背中のほうへいなないてみる
傾きを合わせるようにして駆ける
集まって闘っている子供たち
モンゴルの辞書買いに行く秋の雨
くつ下の柄は忘れましてマティス
包丁の裏に残しておく茗荷
後頭部並べる部屋を用意する
鳥 宮本夢実
梟やゼロ番線に着く夜汽車
締まらぬ蛇口たためない鳥の羽
血まみれて鳥はしがらみ剥いでゆく
羽広げ証言台に立った鳥
すこし濡れすこし不良になった鳥
真っ直ぐの鳥が溺れる水たまり
すぐ落ちる鳥で友達また増える
理屈では餌を横取りしない鳥
九条をくわえた鳥よどこへゆく
欲望に浸かれば鳥も人になる
指鉄砲 ひとり静
北風の手前に見える非常口
大根をさげてやさしい線になる
まずはじめに指の記憶を消しなさい
源氏蛍あの世この世で奪い合う
考える時間をくれぬ心太
指鉄砲こめかみに当て撃ってみる
泡立ててからプライドの位置決まる
鰯裂く正しい指の使い方
ドミノ倒し子猫を抱いてしまったの
朦朧の記憶の中の紙ふぶき
長い廊下 大川博幸
手放しで乗れ自転車もぶらんこも
悟れない壁の汚れが気になって
肉体を持つゆえ往き来長廊下
護美袋ちから太郎にならず持つ
額にこぶガラスをとおり抜けようと
長廊下枯野の部屋がみぎひだり
世の果ての大鏡否大硝子
何不自由ない苦しさをいかにせん
灯を消して真夜中めくも宵の口
一本の廊下に迷う人ばかり
イルカ 桑沢広美
ブラをとる胸にイルカを放つとき
五角形がんばるけれど円じゃない
干し竿に季節はずれのアロハシャツ
封印をといた乳房にごはんつぶ
爪を切る明日の戦勝ちまっせ
オオカミがベビー石鹸使っちゃう
牛乳のフタとる指がありません
朝七時おっぱいが三角になる
ママだってちいちいぱっぱずる休み
秘密です飛べない蝶を飼ってます
次世代DVD 川合大祐
月光は針山かぐや姫無惨
湯の底でとうとうぬめり出す臀部
人、人、人。豚、豚、豚の夢見たり
身を投げる博覧会の終わる日に
友を撃つディズニーランド開く日に
太陽がクスリともせず骸焼く
人生の長さ蛆虫這いずりし
して下さる?じつに下らん下らん
罪人の足跡消えし泥の海
無神都市それでも人は出会うなり
はじまりと終わり 樹萄らき
砂かける準備はできた後ろ足
お手玉をしようか落としたら死ぬよ
竹の子よ二度とかぐや姫を生むな
献血にタイやヒラメの血が混じる
びっくりに会いたいピーカン晴れにする
革命の力を持っているすみれ
花占いファミリーつくるつくらない
懺悔よりも自分を愛してごらん
モリゾーとキッコロいつまでの命
マンモスの風化を待っている記憶
さすらい 丸山健三
雪心身一周忌から春がくる
大海に日の出る時間如来かな
使いたくなかった文字を膨らます
控えめな蜘蛛が仏の上に居る
流れ星きっとどこかの舎利●門
こめかみにごつんごつんと空の穴
右ききの手で髪を梳く 流離
かっこよくみんなが送る星になれ
目覚めれば雪の匂いに宥められ
砂乾く心の破片拾いつつ
河瀬芳子
八月の足に絡んできた芒
帰ろうとかいなひねりを鬼やんま
粥噴いて夕虹すこしこぼしけり
泡立草と火の輪くぐりをしませんか
離婚結婚みんな付けてるピンクのリボン
とめどなく冬が座っている壺
砂吐いて貝は永遠を手にした
それではと大風呂敷へ包む恥
こぼれ萩 ひとの噂はいうまいて
定型の煮ても焼いても茄子の蔕
鬼婆 米倉ひさき
子宮より砂流れをりダイエット
子宮閉鎖月の砂漠の女たち
鬼婆になるぞ子宮を使わねば
やや宿し子宮もすなるストレッチ
握ってはだめヨン様のマシマロは
なんまいだ袋の中はなんまいだ
てんかんにかんてら照らし分け人りぬ
爺さまが自慰に手を出す自爆テロ
陰茎も女陰もしあわせくっちやくちゃ
やや引いて見る仏壇と俳壇は
秋 池上とき子
遺伝子のなぞなぞ孫と解いている
あいまいな脳味噌だけど子に孫に
パパの背を超えて黄色い傘とばす
コスモスの種をこっそりもち歩く
般若の面はかくして上がる能舞台
病気などもらわぬ小さな汚れた手
玄関の造花をほめるセールスマン
読みきれぬ本をかかえて秋のウツ
信号は点滅 秋の陽のまんなかで
暖かい布団に抱いてもらうだけ
空から 小池孝一
しゃぼん玉そこからこの世見えますか
しゃぼん玉ボクもどこかへ連れてって
しゃぼん玉風の便りを聞かせてね
秋終い案山子を唄うねんころり
注意報いろいろくぐり抜けていく
それぞれの光り混ぜ合う日没後
霧深しいっそ神秘に包まれよう
名月や躓きやすいひとりです
難問はあるものカボチャとの握手
台風も地震も嫌い蜘蛛の巣も
原 千春
捨て猫が迷惑かけるといって泣く
キスをする君の分までちゃんとする
爆弾を渡しそびれてあっぱらぱ
この星のまわる速度にしがみつく
ぬいぐるみしっかり抱いてホームレス
ギャラリーがいるときつよくつよく泣く
爪を切る鬼でいるのがばれぬよう
月光で洗濯物を干している
弟にいい子いい子と言われてる
困ったら笑うほかにはないんです
おぞましき いとう岬
黄昏の街に繰りだす捕鯨船
ところどころに青空が零れたり
訳あって死体を詰めた冷凍庫
君が代のズボン脱がせて見てごらん
九条のどこに触れても性感帯
七三にわけたあたりが戦場で
ジョーカーで身のうえ話しはじまりぬ
靖国よ鳥居にさがる縊死の数
鳥籠のなかで着替えを済ませたる
ケンケンパ郵便局という踏み絵
誘う
気張らんと敬老会にきませんか 岬
6/特す・特千・ら・純
誘われて少し乱れた蟻の列 夢実
5/特岬・ら・純・す
ひとつずつ釦をはずす遠花火 とき子
4/特幸・健・夢
ちょいとあんた森の入口はここよ らき
4/孝・大・健・夢
畳まれておいでおいでをする扇子 夢実
3/特浜・岬
偶然のフリして揺する蜘蛛の糸 みすず
3/特健・岬
弟はおいでおいでが口癖で みすず
3/特ら・岬
どんぐりころころ一人芝居に誘われる 健三
3/特孝・ら
誘われてゆく暗い方暗い方 博幸
3/特大・孝
色即是空色即是空Fカップ 岬
2/特夢
立葵自供しなさいラクになる 岬
2/孝・純
誘うなどまだるっこしやかっさらう ひさき
2/千・純
ぴったりのくちびる浮いている銀河 とき子
2/孝・す
明け方の沼の誘いに乗ってみる 夢実
2/孝・す
変化球たまには投げてよ ねーってば 孝一
2/大・夢
誘拐屋とは名刺にはなかったが 孝一
2/ら・大
元カノに「神のお話ししませんか」 大祐
2/ら・純
誘うのはいそぎんちゃくの上戸彩 大祐
1/岬
お誘いをお断りする真っ裸 ひさき
1/岬
金ラメの黒いカーテンが揺れる らき
1/大
蜜舐める誘い上手になれるよう 孝一
1/健
村が誘致した小規模遊園地 博幸
1/大
課題句選『誘う』
気張らんと敬老会にきませんか 岬
みすず ウチの父親がそうなんです。敬老会に入りません。この川柳トイレに貼っておこうかな。
千春 何だかすごく面白いというより可愛かった。私も誘われてみたい。
誘われて少し乱れた蟻の列 夢実
岬 そうか、蟻の列が乱れたのは道すがらの誘惑があったからなのか。
畳まれておいでおいでをする扇子 夢実
純子 悪代官の扇子が目に浮かびました。有無を言わさぬ「おいでおいで」…怖いお話しの始まりです。
ひとつずつ釦をはずす遠花火 とき子
幸代 すぐ近くで見る花火は、「ドーン」と鳴る度にお腹の芯まで痺れてくる快感がありますが、ロマンチックになれるのは遠花火のほうですね。遠くから聞こえてくる音には、誘われてもいいな…という想いにさせられます。これは、中年の感覚なのかな?
弟はおいでおいでが口癖で みすず
らき 弟は三歳だったかねぇ、やっと言葉を話せるようになったばかりだったよ。おいで、おいでが気に入ってねぇ、今でもそればっかりだよ。ほら、そこに居るだろ、足はないけれど。
誘われてゆく暗い方暗い方 博幸
大祐 誘われるとは、誘惑者と被誘惑者の共犯関係である。(イヴの失楽を想起されたし)。暗いほうへ。これは誘われる者のひそかな志向の表れである。
色即是空色即是空Fカップ 岬
世の中にあるものは、すべて仮の姿だというけれど、Fカップだけは別であるという作者の独善に乾杯!