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文芸を親しみ、交流するいとう岬のサロンです
by msk333
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文芸森樹
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落合晴水
もう二十四年も昔の話になります。
私の通っていた高校が夏の甲子園大会に出場することが決まり、当時三年生だった私たちも、もしかしたら憧れの甲子園に応援に行くことが出来るかもしれないと胸を躍らせたことがありました。
しかし丁度その時期、私たち三年生は大学受験を控える身であり、県の西部にある市内のホテルにて強化合宿を予定していたのでした。
三日間ほどホテルに缶詰になり、自分の苦手教科を勉強するというものです。その合宿が終わるとすぐに韓国岳、高千穂峰への登山が待っていました。信じ難い話ではありますが、その合宿と登山こそが、私たちの高校の「修学旅行」だったのです(笑)。
昭和五十八年八月。自分たちの仲間が甲子園で闘っているときに、私たち三年生はひたすら高原のホテルで机に向かい、参考書に目を通しておりました。
……正直に申しましょう。
ただ、虚しい気持ちでいっぱいでした。たかだか三日間、ホテルで缶詰になり学んだところで、自分の苦手とする教科が克服できるものでしょうか。
一体何のための合宿なのだろうと思いました。
自分が高校に在籍しているときにその高校が甲子園に出場が決まり(思えば そのことだけでも夢のような話ではあります。確率で言いますと一体どれくらいのものなのでしょう)そしてめでたくも初戦を突破、ついには強豪池田高校との対戦を控えていた時ではありました。
こんな時にこそ、みんなでひとかたまりになり団子になり、甲子園で力一杯声援を送りたい、と思いました。
一緒に応援歌を歌ったり、味方の活躍に喜んで心を弾ませて、……普段は進学担当の先生方から「クラスメートとは言えど志望先が同じ場合には敵だ。蹴落とせ」と言われておりましたが、せめて甲子園にいる時はみんなで肩を組んで、かけがえのない青春の真っ直中にいる「私たち」を確かめたかった。
合宿二日目、朝早くに目が覚め、ふと窓の外に目をやりました時……蜩の声が聴こえて参りました。かなかなかなと淋しい響きです。
その蜩の声に耳を傾けながら、私はまるで風のように流れ去る十七歳の夏を心の奥に 大切にしまい込んだのでした。
蜂クリック
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