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文芸を親しみ、交流するいとう岬のサロンです
by msk333
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文芸森樹
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ひよきち・作
学習能力
娘の自由宿題のノートを見ておりましたら、なんとひよきちのことを書いている箇所を発見。どれどれ一体どんなことを書いているものやらと読んでみますと、10日の手術日のことについて書いておりました。
ここに少し抜き書きしてみますと、
「お母さんも、手術まであと2日、あと1日、あと4時間、1時間と、手術が近付いてくるたびに元気がなくなっているような、そんな気がしました。」
「私が『お母さん、大丈夫だよ!』と言っても、あんまし元気にはなりませんでした。」
「手術も無事に終わって、薬をもらい、家に帰ってきたとき、お母さんの力が思いっきり抜けて、次の日、ずっとおとなしくなっていたのを見て、今度は、私はお母さんのことを心配していました(笑)」
ううぅ。一体どちらが親なのでしょう……。みゆきち。心配かけてごめんね。
しかし、夫と娘は性格がとてもよく似通っておりまして、娘など、手術直前まで「あたしンち」を読んで大笑い。
夫は夫で、病院の廊下の椅子に座り込み、青い顔をしてうなだれる私にこう言うのです。「ママ!こんな時にはな、手の平に“人”という字を書いてそれを飲むんや!」……何か違ふ。
そのうち、夫は何を考えたものか、お茶のペットボトルに貼られていたシールを剥がし、「このシールをおでこに貼るとな手術に対する不安がなくなるねん!」などとわけのわからぬことを口走り、娘と共謀し、いやがる私のおでこにそのシールを貼ろうとするのですね(笑)。その上「早口言葉競争や!!」と言いだし、「ドラキュラを10回言う!」「レギュラーを10回言う!」「リフレクソロジーを10回!」などと私に強要するのです。(そのいずれも、私、言えませぬ。)
あまつさえ夫は「鳥に舌ってあったっけ?」などと呟き、「え?」と即座に頭を抱え込む私に対し、「……実はな、鳥にも舌はあんねんで。」と囁くわけですね。
「………???」と疑惑の目を向ける私に対し、夫と娘は「ほんまやねんで。」と説明し始め、挙げ句の果てにゃ「学校で習てん。」などと念押しするんです。
夫は至極真面目な顔をしまして、「……鳥の口の中にごく小さな骨があって、それは三角形をしとってな。その骨が舌の役割を果たすねん。」と。
………そうなのか(納得)。
でも、その小さな骨の表面に味覚を感知する機能はあるのだろうか。などと私は素朴な疑問を彼らにぶつけたわけなんですね。餌を食べるときに、その骨が邪魔になることはないのか、とも。
そうしましたら、それまで静かに缶コーヒーを飲んでいた夫が突然「ぶはっ!」とコーヒーを吹き出しまして大笑いするんです。
「いや~!また、ママをだましてもうた~!」と。で、パパも娘もげらげら笑っているわけなんですね。むかっ!!
なんで、なんで、私はいつだって彼らに瞞まくらされてばかりなのでしょう。えー…私、学習能力の欠如をば深く自覚した次第であります。どなたか、こんなひよきちに学習能力を。
怒ってないよ
ひよは警戒心の強いタイプではあるけれども、夫に対しては 最早警戒の「け」の字もない。割と何でも信じる方である。夫が「白」と言えば素直にそうか!と思い、一緒になって「白」と信じ込む人間である。
基本的に彼の言うことには間違いがない(笑)と思っているので、分からないことや迷っていること、どう考えていいかわからない時などは必ず彼の意見を求める。
あれは確かまだ新婚の頃のこと、夫と2人で市内のレストランに入った時のことであった。
内装も実にきれいで、また落ち着いた雰囲気で割と気に入っていたお店ではあった。
彼が声を落としてささやくには、「あのな、ここのお店のデザートがめっちゃ凝っとってな、たしかインドで流行っとうめちゃめちゃ美味しいデザートやねんて。器もな、インドからわざわざ取り寄せて、本場と全く一緒のものらしいわ。そんな所にまで気ぃ遣って、やっぱりこのお店おしゃれやな。
デザートの名前、なんやったかな……。『サーラ・ムーディー』ちゃうかったかな。」
この人ってそういうことまで知ってるんだ……。私はそんな彼を見上げ、素直に「すごいなぁ」と思っていた。
……やがて食事は終わりに近づき、いよいよデザートへ。夫がちょっと席を外したとき、そのデザートは運ばれてきた。
「おお! これが噂の「サーラ・ムーディー」なるものか!」私はお店の方に笑顔を見せ、ゆっくりとうなずきながら「サーラ・ムーディー」について話してみた。
「さすがですね。」という思いを込めて。
……その時、お店の人がどういう返答をなさったかは、ここで言わない方がいいであろう。
思い出したくない事というのは、執拗にほじくりかえす必要もないと言う理由からである。
今更思い返したくもないことではあるけれども もうひとつ。
夫がラーメンを食べたいという。近くにお店があるので其処に行きたいという。何でも以前同僚の方と一緒に行ったとき、とても美味しかったそうで、彼が言うにはそこの「ピザラーメン」なるものが「ぴかいち」と言うことだそうだ。
ピザについては贅沢な素材を惜しげもなく使い、お客の好みに合わせてどんな種類のピザでも作ってくれるという。それがラーメンの中にプカプカ浮かんでいるという。ラーメンのスープとピザのハーモニーが抜群だともいう。メニューの中には載っていないものの、常連さんの間ではかなりの人気メニューなのだそうである。
私はちょっと懐疑的になっていた。
「そんなん ほんまにあるのだろうか?」疑わしい目つきをしていた私に、彼はなんのかげりもない眼でほほえみかけ「ほんまなんやで。」と笑った。
「でも、ひよちゃんやったらそんなん食べへんわな」と言って笑っていた。
私も「そうだね。」と言いながら、心の中では「頼んでみたろ。」と秘かに企てていた。ラーメンは豚骨。ピザに関しては「照り焼きチキン」と決めていた。アスパラがついていればもう何も言うことはない。
2人で暖簾をくぐり、お店の中へ。「へい、らっしゃい!」と威勢の良い声。おお、さすがラーメン屋さんだ。やはり こうでなくては。
店員さんがメニューをききに来て下さる。夫は「チャーシュー麺」といい、私は微笑みながら「メニューにはおいていないそうですが」と前置きした上で大層にこやかに、「ピザラーメンをお願いします。」と言った。
………そのあとの、店内の様子をここに書くことはしのびない。余りに。
ああ、何だかこれを書いているうちに 何故だろう。だんだん腹が立ってきた。
腹立ち紛れに もうひとつ。
学期の終わり頃になると 彼は生徒さん達の成績処理に追われる。他の職業もそうだろうと思うけれど、教師というものもなんと過酷な、とも思うのだ。
彼の場合、朝7時から陸上の練習。夜は9時くらいに帰宅。夕食を終えるとすぐに仕事上の書類作成。日曜日は(季節にもよるが)陸上の大会でほとんどつぶれる。仕事を持つことの大変さを、彼の姿を通してしみじみと思う。
さて 2学期の成績処理に追われ始めていた頃。彼が鞄の中から何やら不思議なものを出してきた。……電卓に似ている。彼によるとそれは「テンキー」というものだという。
彼が目を輝かせていうには、これは最新型のパソコンであり、こんなにちっちゃくて電卓のようなものにしか見えないものだけれど、当然のことながらちゃんとスイッチもあるし、ある秘密のボタンを押すとちゃんと画像も出てくるのだという。要するに優れものだというのだ。
そんじょそこらのものではないのだから、みだりに触れてはいけないという。そう言い残して、彼はすたこらさっさとお風呂にはいってしまった。
私はその「テンキー」なるものをじっと見つめる。どう見ても「電卓」にしか見えないのだけど、これが「優れもの」なのか? 触ってみたいけれど 夫の「みだりに触れてはいけない」を思い出し、ただ机上にある その得体の知れな……もとい、不思議なものを見つめていた。
秘密のボタンって何処にあるんだろう。それを押したら何処かがぱかっと開いて、画像が出てくるのだろうか。ああ、触ってみたい。そして「秘密のボタン」なるものを探し出してみたい。いや、でも もし「みだりに触れて」その「優れもの」を壊してしまったらどうする?……私は心のなかで激しく葛藤していた。
やがてその葛藤も最高潮に達した頃、夫が肩にタオルをかけ「ああ、気持ちよかったなぁ。」と笑顔で部屋に戻ってきた。
「今日のお風呂はあれはラベンダーやろ? 俺な、最近ハーブにはちょっとばかりうるさいねん。」と言って、優しくほほえみかける彼に対し、「いいえ、あれはクールミントです。」などと一体誰が冷たく言い得ようか。
「夫よ、早く植物の名前を覚えましょう」と思いつつ、「それは何よりでした。」と答えておく。……そのすぐあとに私は、「ねえ、秘密のボタンって何処にあるの?」と、彼に訊いてみたのである。そして、その直後に訪れた、誠に静かな沈黙の時。
まあ、要するに その2時間半後。「ひよちゃん、ごめん、俺が悪かった。もうおちょくったりしないから。」と、ひたすら謝る夫に対し、ひよは「何も謝る必要なんてないじゃありませんか」とあでやかに微笑み返し、ずるずるずると自分のお布団をば隣の部屋にまで引きずっていき「それではゆっくりとおやすみなさいませ。」と夫に御挨拶申し上げ、ピッシリとかたく襖を閉めたのでありました。はい。
蜂クリック
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